刃物によく使用される材質について
現在ご使用になられている工業用刃物の素材をご存じでしょうか。また、どんな素材があるかご存じでしょうか?
刃物に適切な素材を選定することは「切れ」や「刃持ち」に大きく影響する要素の一つです。
読むと改善のヒントになるかもしれません。今さら聞きづらい基本的なことを中心にお伝えします。
刃物用材質の分類は?
刃物に使われている材質は、鋼材の中では「特殊鋼」に分類されます。特殊鋼とは、用途に合わせて鉄にいろいろなものを加えた合金のことです。
特殊鋼もいくつかに分類されますが、その中でも「工具鋼」、「ステンレス鋼」について紹介していきます。また「超硬合金」もよく使用されます。
①:工具鋼
「炭素鋼(SK)」「合金工具鋼(SKS・SKD)」「高速度工具鋼(SKH)」などに分類され、熱処理を行うことで硬くさせ、耐摩耗をよくして使用します。工業用刃物ではもっとも多いものになります。
材質 | 通称 | 硬度 | 特徴 | 用途例 |
SK | HRC56~60 | 鉄にC(炭素)を加えた金属。C量が多いほど硬度をあげらる。刃物用鋼材の中では比較的安価。再研磨をせずに使用することも多い。 | ドクターブレード、薄板形状刃 | |
SKS | HRC58~60 | SKに少しレアメタルを加えた金属。SKSはSKと比べると耐摩耗性があがる。高温等条件によっては差がでる可能性がある。 | ドクターブレード、薄板形状刃 | |
SKD | ダイス鋼 | HRC58~60 | SKに少しレアメタルを加えた金属。耐摩耗性が高い材質。鋭利な刃物より鈍角な刃物で効果を発揮する。 | スリッター下刃、リサイクル用刃物、パンチ |
SKH | ハイス | HRC62~64 | C量の多いSKにレアメタルを加えた金属。タングステン(W)系とモリブデン(Mo)系に分かれる。硬度・耐摩耗性ともに優れている。 | スリッター上刃、カッター平刃、ターニングナイフ、断裁包丁 |
※ 用途例をクリックすると商品事例がご覧になれます。
②:ステンレス鋼
鉄にクロム(Cr)等を加えて、耐食性(さびにくさ)を高めた金属です。工業用刃物にはCを含んだSUS400番系が使用されます。ステンレスの中で大きく3種類に分類されます。以下は分類の代表的な素材について紹介します。
材質 | 通称 | 硬度 | 特徴 | 用途例 |
SUS440C | サス、ステンレス | HRC54~58 | SUSの中では最も硬度が高い素材の一つです。SUSの刃物は一般的に使用されます。 | 丸刃、カッター平刃、食品用刃物、衛生用品用刃物 |
SUS420 | HRC52~54 | SUSの中では硬度が高く、刃物としても使用できます。 | 薄板刃物、ドクターブレード | |
SUS304 | サス、ステンレス | HRC45~48 | 最も耐食性が高い。磁性が弱く、研磨加工には不向き。熱処理ができず、硬度も低いため刃物には不向き。 | 機械用部品、刃物のロー付母材 |
③:超硬合金
タングステン(W)をいうレアメタルを主成分にコバルト(Co)等を加えた素材です。
こちらについては、別のコラムで詳しく書いてますので、ご参照ください。
超硬合金について詳しくはこちら>>> 超硬刃物の素材選定のポイント
刃物素材の選定のポイント
わが社が多種多様な刃物用素材の何を見て選定しているか?
選定するにあたっては、「切断条件」「刃物形状」「寿命」「価格」等のバランスを考慮します。
●切断条件
素材を選定するにあたり、最も重要なのは「切断条件」です。例えば、使用方法で衝撃が大きいところは、硬度が非常に高いものはなかなか使用できません。
硬度が高いと耐摩耗性は良いのですが、欠けやすいためです。
●刃物形状
鋭利な刃先を必要としているのか?比較的鈍角なものなのか?など刃先形状も重要な要素です。刃物の形状によっては、流通している適材がない場合もあります。
●寿命
現状のものを長寿命化したい等の改善する際は硬度を上げていくのが一般的です。ただ、素材変更がいいのか、形状変更で対応可能か、コーティング等が妥当かなど
切断条件や刃物形状、価格等を踏まえて選定していきます。
●価格
形状や流通量にもよりますが、一般的に素材による価格は以下のような順番で高価になります。
SK<SKS<SKD<SKH<超硬
素材の選定は、やはりバランスが大切だと考えています。すべてを「安価」「長寿命」「割れにくい」「さびにくい」などすべてを兼ね備えた素材はありません。
ご使用の条件、品質をクリアした上で費用対効果を高めるために、ご使用の方々と一緒に研究していきます。
また、刃物単体が長寿命化しても周辺部品が短命化したり故障の原因になってもいけません。したがって、材質選定でもっとも大事なことは
刃物単体で考えず、上下刃セットで考えたり、周辺部品や切断条件含めトータル的に考えることだと思います。
下記では、刃物素材を再検討した改善事例をご紹介しています。詳しくは下記をご覧ください。
□ カッター刃の刃先素材変更による長寿命化 >>>詳しくはこちら
□ リサイクル用品向け粉砕刃の材質・硬度調整で長寿命化 >>>詳しくはこちら
紹介している以外でも多数実績あります。現状をもっとよくされたい、欠けが発生するなど気になる方はお気軽にご連絡ください。
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