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刃物選定のための技術コラム集

工業用刃物によく使われるコーティングについて

コーティングとは

工業用刃物の表面に薄い膜をつけることで、母材(素材)の特徴を生かしながら、新たな性能を付け加えたり、素材特徴を強化したりすることです。コーティングは表面処理になりますので、再研磨を行った場合は効果が失われる場合もあります。ここでは代表的なコーティングとその特徴や効果についてご紹介します。

 

コーテイング種類 性能 効果
フッ素樹脂コーティング 非粘着 粘着物の抑制
硬質クロムメッキ 硬化・耐食 長寿命化
チタンコーティング(窒化チタン) 硬化・耐食 長寿命化
DLCコーティング 硬化・耐食・摩擦削減 長寿命化・熱発生の抑制
無電解ニッケルメッキ 耐食 錆の低減

 

各種コーティングの目的

●刃物の長寿命化

刃物の長寿命化はランニングコストの低減や生産性向上において大きなテーマです。再研磨等を考慮して素材そのものの変更も視野に入れて検討はしますが、使い方や適材の有無等の条件によっては、コーティングを実施した方が効果が高い場合があります。

  • 硬質クロム(HCr)メッキ

被膜厚:20㎛~1000㎛(目安) 硬度:HV800~1000

アンビルロールなど比較的大きなものに使用されることが多い

  • チタンコーティング

チタン系のコーティングは何種類かありますが、窒化チタン(TiN)が主流です。ここではTiNの特徴をご紹介します。

被膜厚:2㎛~5㎛  硬度:HV2000~2200 被膜色:金色

被膜厚が薄いため、刃先が鋭利なものにも使用される。フィルム切断用の鋸刃等に使用されることが多い。

 

<チタンコーティングを用いた課題解決事例>

>>>フィルム用パンチへのコーティングによる長寿命化

 

  • DLCコーティング

DLCとはダイヤモンドライクカーボンのことで、ダイヤモンドのような構造にした炭素結合です。

被膜厚:1㎛~2㎛  硬度:HV3000~5000 被膜色:青・黒色

非常に硬いコーティングです。価格としても高価なため、超硬を母材に実施することも多いです。

摩擦係数が0.1程度と非常に小さく摺動による熱の発生を抑制する目的で使用されることもあります。

 

●粘着物の抑制

  • フッ素樹脂コーティング

テフロンコーティングという商品名が有名ですが、フッ素樹脂の一種です。(テフロンの名称は米国ケアーズ社(旧デュポン社)の商標)

被膜厚:20㎛~50㎛  被膜色:茶色・緑色・黒色等

用途によって樹脂の種類や耐熱温度などが変わり、複数種類あります。

樹脂のため被膜厚が比較的厚く、刃先についてると切れが悪くなります。テストカット時にはがしてご使用になられるか、

コーティング後刃先研磨で刃付けし直してご使用になるケースが多いです。

 

●錆の抑制(耐食性の向上)

基本的にはコーティングの元素は耐食性の高いものが多く、刃物の錆の抑制はチタンや硬質クロム等で行うこともあります。大きさ、形状、使用方法によって他のコーティングで個別対応することもあります。

  • 無電解ニッケルメッキ(カニゼンメッキ)

被膜厚:3㎛~20㎛

耐食性は向上しますが、硬化はしないためホルダー等の刃物周辺部品に使用することが多いです。

技術コラム「超硬刃物の素材選定のポイント」>>>

 

コーティング実施に際しての注意点

コーティングは表面処理になります。そのため最初に述べた通り、母材(刃物や部品の素材)の硬度や金属特性によって状況が変わります。

例えば、表面のみの硬度を高くしても母材の硬度が低すぎると、凹みなどが発生し、そこからコーティングが剥離してしまったり、

コーティングから浸透して金属そのものが錆びてしまい、使えなくなったりすることもあります。

それを防ぐためにも、当社では使用条件や課題を十分にヒアリングさせていただいております。十分な情報提供とお打ち合わせをさせていただけると、課題解決への近道だと思います。

関連記事~

別の記事で素材選定について一部ご紹介しております。あわせてご参考にしていただければと思います。

刃物によく使用される材質>>>

 

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