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工業用刃物はこうやって作られる(刃物製造工程の紹介)

工業用刃物はこうやって作られる!

(刃物製造工程の紹介)

 

 

 普段ご使用のスリッター刃やカッター刃などの工業用刃物はどうやって作られるかご存じでしょうか。「四角なだけなのにそんなに・・・、丸いだけなのにそんなに・・・」と思われたことがある方も多いと思います。(私も何度そう思ったかわかりません)

刃物を上手にご使用になるためにも、製造工程を知っていることは決して損にはならないと思います。ここでは、工業用刃物の製造工程を簡単にご紹介いたします。形状や材質、精度など実際は細かく違う部分も多々ありますので、あくまで大まかな流れで捉えていただけると幸いです。

 

1:基本的な流れ

①素材選定 ➡ ②成型加工 ➡ ③熱処理 ➡ ④研磨加工 ➡ ⑤検査・包装

大まかな流れとしては上記のような流れで工業用刃物は製造されます。どんなに簡単な形状のものでもこの工程を通ります。形状によっては、②成型加工や④研磨加工で何種類もの機械を使用され加工する場合もあります。

※一部の製品では行わない工程もあります。

 

2:各工程について

①素材選定

工業用刃物は高硬度が求められる場合が多いため、特殊鋼が使用されます。

素材の形状としては、板材(ブロック材)、薄板材、丸材、パイプ材が一般的です。素材種類によってはサイズが制限される場合が多いです。

形状や材質に合わせて最も効率よく取れる素材を選定します。数量や②成型加工の加工特徴との兼ね合いも考慮に入れて選定していきます。

別コラムにて材質については記載しておりますので、ぜひご参照ください。

技術コラム:刃物によく使用される材質

②成型加工

成型加工は焼き入れ前に大部分の形状を決定する加工で、荒加工とも呼ばれています。一般的には下記にあげたような機械による切削加工になります。

・フライス加工

・旋盤加工

・マシニング加工

・レーザーカット加工

ここでの加工で熱処理後に加工しない部分はサイズや公差が決まってきます。また、素材からどのようにして取るか等細かな部分で後の熱処理時に変形するかにも影響がでます。

技術力が後工程や製品品質に影響を及ぼしてきます。

 

③熱処理

刃物として使えるようにするために「硬くする」工業用刃物で最も特徴的な工程です。材質特性ももちろんありますが、刃物の硬度を決定するのは熱処理です。

刃物の製作時によく使われる熱処理の種類は以下のようなものがあります。

No 熱処理種類 熱処理の特徴 刃物の特徴
1 全体焼入れ 内部まで全部を均一の硬度にする熱処理で「ズブ焼き」とも言われる。工程としては硬くするための「焼き入れ」と組織を安定化させるための「焼き戻し」をセットで行われる。 硬度低下による再研磨の限界値がない
2 真空焼き入れ 全体焼入れの手法の一つで真空炉に入れて行う方法。真空のため、表面に酸化被膜がでにくくなる。 熱処理後の研磨量を抑えることができる
3 高周波焼き入れ 高周波コイルに電気を流して、製品の温度を上げる熱処理方法。表面のみの焼き入れで部分的に硬度を上げる。炉に入れないので、比較的安価で大きいものまで熱処理できる。 長く薄いものによく使用される。再研磨での使用回数が限られる。
4 浸炭焼入れ 製品の表面に炭素を浸透させながら焼き入れを行う方法。炭素含有率が低い材質でも表面硬化させることができる。内部は硬化しないため、内部は靭性が保たれる。 衝撃が大きい製品に使用される。硬度変化や形状変化が大きいため、高精度品にはあまり適さない。

 

④研磨加工

 

 

研磨加工とは、砥石を使用する加工のことで、刃物の形状や精度・面粗度を最終的に決定していく加工になります。また、刃物としての切れ味を左右する「刃付け」も研磨加工で行います。

研磨加工は研磨する部分や仕上げ精度によって機械も変えていくことも多く、スリッター刃や丸刃などの円形の刃物は3~4種類の機械を使いながら仕上げることが一般的です。

再研磨できる部分は限られているため、新規に製作した時の精度が重要になってきます。

 

別コラムにて再研磨について記載しておりますので、ご参照ください。

技術コラム:スリッター刃研磨のポイント

技術コラム:フィルム用平刃の研磨修理について

 

⑤検査・包装

出来上がった刃物が図面通りできているか、刃先がチッピング(小さな欠け)を起こしてないか等検査します。検査後、錆対策を施し完成。

錆対策は防錆油を塗布、防腐紙での包装、密封等があります。空気を遮断することが錆対策になります。

防腐処置は行いますが、長期間そのままで置いておくと錆びたり、防錆油がこびりついたりすることもあります。

 

3:その他の加工や処理について

基本的な流れの工程以外にも使用用途に合わせていろいろな加工がおこなわれます。また、上記は熱処理を行う単一素材で製作したことを想定していますが、超硬素材や2種類以上の素材を貼り合わせて製作する場合などもあります。

コーティング

研磨後に表面処理を行い、新たな性能を加えたり、材質特性を強化したりすることです。

別コラムにてコーティングについてご紹介しておりますので、詳しくはそちらをご参照ください。

技術コラム:工業用刃物によく使われるコーティングについて

 

・2種類の素材を使用した刃物について

刃物で使用する素材(特殊鋼や超硬)は非常に高価なため、断裁包丁など大きなものは刃先部分のみに使用し、取り付け部分はSS400やS45C等別の素材を使用する場合があります。

特殊鋼以外の部分の材質のことを母材といいます。

張り合わせ方法は、ロー付けやボンド付けなどがあります。

母材が使用される理由は大きさだけではなく、靭性向上や耐食性向上を目的に行う場合もあります。

 

超硬について

超硬は炭化タングステンを焼結させたものになりますので、②成型加工と③熱処理の部分の工程を超硬素材メーカーが行うことになります。

 

今回ご紹介した刃物製造の流れはあくまで基本的な流れになります。製造方法は使用用途によってさまざまです。

工業用刃物は製造現場での工具ですので、今後も「使える道具」を提供し続けたいと思います。

 

 

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